歌舞伎D-13

GLOSSARY

一撃でわかる歌舞伎用語集

荒事、見得、隈取、花道——。すべての用語に、まず40〜80字の「一撃回答」を置きました。ひと目で意味をつかみ、深く知りたくなったら、そのまま詳細ページへ。図から入るのもおすすめです。

101 TERMS

THE STAGE, AT A GLANCE

図でつかむ、舞台のしくみ

ことばの前に、まず一枚の図から。番号を押すと、その用語の案内へ進めます。

舞台花道客席大向う(3階席のあたり)1234567
  1. 1花道客席を貫く俳優の通り道
  2. 2すっぽん花道の小さなセリ。妖しいものが現れる
  3. 3廻り舞台場面を回して転換する
  4. 4セリ人や大道具を昇降させる
  5. 5定式幕黒・柿・萌葱の三色の引幕(歌舞伎座の並び)
  6. 6黒御簾効果音・下座音楽の部屋
  7. 7大向う掛け声のかかる後方の席
図は一般的な劇場の配置を簡略化したものです。寸法や定式幕の色順は劇場によって異なります。番号を押すと、それぞれの用語の案内へ進めます。
劇場正面舞台奈落客席12345
  1. 1櫓 — 官許のしるし
  2. 2奈落 — 舞台と花道の床下
  3. 3セリ — 昇降の仕掛け
  4. 4すっぽん — 花道のセリ
  5. 5花道 — 客席を貫く道
横から見た断面のイメージ図です。実際の構造は劇場によって異なります。

紅隈

正義・若さ・あふれる力

藍隈

悪・怨霊・冷たい力

茶隈

鬼や妖怪など、人ならざるもの

色を見れば、その役の性質が伝わる——隈取は歌舞伎の「顔の言葉」です。隈取には多くの種類があり、図の色はおよその色味です。隈取をくわしく →
01THE ESSENTIALS

まずは、この13語

これだけ知っていれば、初めての観劇がぐっと楽しくなる基本のことば。

荒事あらごとaragoto初代市川團十郎が創始したとされる勇壮な演技様式。隈取や巨大な衣裳、大きな見得によって、人間を超えた力と正義を表現する。
押隈おしぐまoshiguma舞台を終えた役者が、顔の隈取を布や紙に押し当てて写し取ったもの。その日、その役を生きた身体の記録として残される。
押戻しおしもどしoshimodoshi暴れ狂う怨霊や妖怪を、荒事の勇者が花道で押し戻す様式的な場面・役柄。歌舞伎十八番の一つにも数えられる。
女方おんながたonnagata女性の役を専門に演じる男性俳優。写実の模倣ではなく、様式化された美によって歌舞伎独自の女性像を舞台に立ち上げる。
傾くかぶくkabuku常識に対して「傾く」、型にはまらず自分の色で堂々と生きること。「かぶき者」に由来し、歌舞伎の語源とされる言葉。
隈取くまどりkumadori図解役柄の内面を色と線で顔に描き出す歌舞伎独特の化粧法。紅は正義や勇気を、藍は敵役や超自然の力を表すとされる。
十八番じゅうはちばん(おはこ)jūhachiban / ohako動画市川宗家が家の芸として選んだ十八の演目「歌舞伎十八番」。転じて、得意なものを指す言葉「おはこ」の語源になったとされる。
襲名しゅうめいshūmei先人の名跡を受け継ぐこと。単なる改名ではなく、その名に宿る芸と歴史、そして未来への責任を引き受ける人生の節目。
定式幕じょうしきまくjōshikimaku黒・柿・萌葱の三色を縦に縫い合わせた歌舞伎の引き幕。開幕と閉幕を告げる、歌舞伎劇場を象徴する意匠である。
ツケつけtsuke図解舞台の上手で木の板を打ち鳴らし、走る足音や見得の瞬間を強調する効果音。役者の呼吸と一体になり、場面を引き締める。
花道はなみちhanamichi客席を貫いて舞台へ延びる通路状の舞台機構。役者の登場と退場を見せ場に変え、観客と役者の距離を一気に縮める。
見得みえmie動画感情と力が頂点に達した瞬間、役者が動きを止めて決める様式的なポーズ。ツケの音とともに、舞台が一枚の絵として完成する。
屋号やごうyagō図解歌舞伎役者の家に代々伝わる、家の呼び名。市川團十郎家の屋号は「成田屋」。劇場では観客の掛け声としても響く。
02STYLE & ACTING

様式と演技

荒事と和事、時代物と世話物——歌舞伎の「演じ方」のことば。睨みと型には本人の解説動画があります。

かたkata動画長い上演の歴史の中で磨かれ、家や名優ごとに受け継がれてきた演技・演出の定型。継承と創造を支える歌舞伎の土台である。
時代物じだいものjidaimono武家や公家の社会、遠い過去の出来事を題材とする演目の総称。様式美豊かな大きな演技で、歴史の世界を舞台に立ち上げる。
所作事しょさごとshosagoto音楽に乗せて舞踊を中心に見せる演目。振事とも呼ばれ、女方の芸から発展して、道成寺物や松羽目物など多彩に花開いた。
世話物せわものsewamono江戸時代の庶民の暮らしや市井の事件を描く演目の総称。恋と義理に揺れる等身大の人間を、身近な言葉と風俗で写し取る。
だんまりだんまりdanmari暗闇の中、登場人物たちが無言で互いを探り合う様子を様式化した場面。観客にはすべてが見えるという約束事の上に成り立つ。
宙乗りちゅうのりchūnoriワイヤーで吊られた役者が客席の上空を飛んで移動する演出。幽霊や妖怪、狐など人ならぬ役に用いられ、劇場全体が舞台になる。
睨みにらみnirami動画両の眼に力を込めて見込む、市川團十郎家だけに許されるとされる特別な芸。睨まれると一年間無病息災で過ごせると伝わる。
早替わりはやがわりhayagawari一人の役者が同じ場面の中で複数の役を瞬く間に替わって演じ分ける演出。速さとともに、演じ分けの確かさが命とされる。
引抜ひきぬきhikinuki仮縫いの糸を後見が抜き、観客の目の前で衣裳を一瞬にして別のものに変える仕掛け。舞踊の途中で舞台の色が塗り替わる。
ぶっ返りぶっかえりbukkaeri上半身の仮縫いを解き、衣裳を腰から返して一瞬で姿を変える仕掛け。隠していた本性を顕す「見顕し」の場面で用いられる。
松羽目物まつばめものmatsubamemono能・狂言に取材し、能舞台を模した松の羽目板の前で演じる格調高い演目。七代目團十郎の『勧進帳』が始まりとされる。
道行みちゆきmichiyuki旅する二人の道のりを、風景と心情を重ねながら描く舞踊の見せ場。多くは恋人たちの旅で、道中の時間そのものが詩になる。
六方ろっぽうroppō図解手足を大きく振り、力強く踏みしめて進む様式的な歩みの演技。『勧進帳』の弁慶が花道を引っ込む飛び六方が名高い。
和事わごとwagoto上方で生まれた柔らかく優美な演技様式。恋する男の繊細な心情をつややかに描き、江戸の荒事と対をなすとされる。
03STAGECRAFT & GENRES

演出とジャンル

立廻りやケレンの迫力から、白浪物・怪談物といった物語の系譜まで。観たい演目を選ぶ手がかりになることば。

怪談物かいだんものkaidan-mono幽霊や妖怪が登場する演目の総称。夏の狂言として親しまれ、鶴屋南北の『東海道四谷怪談』が代表作とされる。
生世話物きぜわものkizewamono世話物の中でも特に写実性の強い演目。文化・文政期以降の江戸歌舞伎で発達し、市井の風俗や人間を生々しく描き出す。
義太夫狂言ぎだゆうきょうげんgidayū kyōgen人形浄瑠璃のために書かれた作品を歌舞伎に移した演目の総称。竹本の語りが劇を進め、丸本物とも呼ばれる。
クドキくどきkudoki義太夫狂言や舞踊で、女性の登場人物が切ない心情を切々と訴える場面。女方が中心となる聞かせどころ・見せどころ。
ケレンけれんkeren宙乗りや早替りなど、観客の意表をつく奇抜な演出の総称。漢字では「外連」と書き、スピードとスリルを重んじる。
白浪物しらなみものshiranami-mono盗賊を主人公とする演目の総称。幕末に流行し、河竹黙阿弥が代表的な作者とされる。『白浪五人男』が名高い。
新歌舞伎しんかぶきshin-kabuki明治後期から昭和初期に、劇場に所属しない作者たちが書いた歌舞伎作品の総称。近代的な人間像を歌舞伎の手法で描く。
立廻りたちまわりtachimawari戦いや捕物など闘争の場面を、下座音楽に乗せて様式化した集団演技。主役に大勢が絡み、要所で見得が決まる。
通し狂言とおしきょうげんtōshi kyōgen一つの作品を序幕から大詰まで通して上演する形式。名場面だけを選んで並べる「見取り」と対をなす言葉である。
トンボとんぼtonbo立廻りで斬られたり投げられたりした役が返る宙返り。「トンボを返る」といい、歌舞伎俳優の基本の身体技術とされる。
人形振りにんぎょうぶりningyōburi俳優が人形浄瑠璃の人形の動きを模して演じる演出。人形遣いに扮した後見が付き、娘役の激情の場面などに用いられる。
花四天はなよてんhanayoten華やかな所作事や時代物の立廻りに出る捕手や軍兵の役、またその衣裳。花模様の四天をまとい、花枝や花槍を手にする。
04THE STAGE

舞台のしくみ

廻り舞台、セリ、黒御簾——上の図解と行き来しながら読むと、劇場の全体像がつかめます。

大道具おおどうぐōdōgu山や海の背景、建物や木、岩など、舞台に据えられる大がかりな装置の総称。廻り舞台やセリなどの舞台機構もその一部に数えられる。
かつらkatsura役の身分や年齢、職業を髪型で示す歌舞伎の鬘。江戸時代の髪型の決まりを土台に、役柄ごとの型が細かく定められている。
仮花道かりはなみちkari-hanamichi本花道と反対の上手側に、演出に応じて仮設されるもう一本の花道。二本を併用する両花道では、劇場全体が物語の空間になる。
き(ひょうしぎ)ki / hyōshigi四角く削った二本の木を打ち合わせて鳴らす音具。一般には拍子木と呼ばれ、幕明きや幕切れなど芝居全体の進行を司る。
黒衣くろごkurogo黒い衣裳と頭巾で全身を包み、舞台の上で俳優を助ける係。「黒は見えないもの」という歌舞伎の約束事に支えられている。
黒御簾くろみすkuromisu舞台下手にある、黒い御簾を掛けた小部屋。中では唄や三味線、鳴物が芝居に合わせて演奏され、その音楽は下座音楽と呼ばれる。
後見こうけんkōken舞台の上で俳優の演技を助ける役。小道具の出し入れや衣裳の引抜きを担い、多くは演者の門下の俳優が務めるとされる。
小道具こどうぐkodōgu俳優が手に持ち身につける持ち道具と、あらかじめ舞台に据えられる置き道具の総称。刀や傘から掛け軸まで、芝居の細部を支える。
すっぽんすっぽんsuppon図解花道の七三にある小型のセリ。妖術使いや妖怪、幽霊など、人間を超えた存在の登場と退場のために使われるのが約束である。
セリせりseri図解舞台の床の一部を切り抜き、俳優や大道具を載せて上下させる機構。上げるのを「せり上げ」、下げるのを「せり下げ」と呼ぶ。
床山とこやまtokoyama俳優の鬘を役に合わせて結い上げ、日々の手入れから楽屋での掛け外しまでを担う職人。鬘に命を吹き込む、頭の専門家である。
緞帳どんちょうdonchō上下に開閉する幕。左右に引く定式幕に対する言葉で、歌舞伎では主に舞踊や新歌舞伎・新作歌舞伎の幕明きに用いられる。
廻り舞台まわりぶたいmawari-butai舞台の床を円形に切り抜いて回転させる機構。前で芝居を続けながら裏で次の場面を仕込み、回転ひとつで世界を転換する。
05MUSIC, WORDS & THEATRE-GOING

音・ことば・観劇

長唄や大向うから、「正念場」「十八番」のように日常へ渡ったことばまで。

イヤホンガイドいやほんがいどiyahon gaido舞台の進行に合わせて、あらすじや約束事、音楽などを同時に解説する音声サービス。1975年に歌舞伎座で始まったとされる。
大向うおおむこうōmukō図解見得や登場の瞬間に、客席後方から「成田屋!」などと屋号を呼ぶ掛け声、またその掛け手。舞台と客席をつなぐ歌舞伎独特の文化。
口上こうじょうkōjō舞台の上から観客へ向けて述べる正式な挨拶。襲名披露では独立した一幕として設けられ、裃姿の俳優が並んで志を申し上げる。
三味線しゃみせんshamisen撥で弾く三弦の楽器で、歌舞伎音楽の中心。棹の太さで細棹・中棹・太棹に分かれ、長唄や義太夫節など流派ごとに使い分けられる。
守破離しゅはりshuhari動画芸道や武道の修業の三段階を示す言葉。師の型を守り、やがて破り、最後に離れて独自の境地へ至る。利休の道歌に由来するとされる。
正念場しょうねんばshōnenba動画ここぞという大事な局面を指す言葉。役の本質を見せる場面「性根場」に由来するとされ、歌舞伎から日常語になった。
千穐楽せんしゅうらくsenshūraku興行の最終日。雅楽の曲名に由来するとされ、劇場では火事を避ける縁起から「秋」の字に代えて「穐」を用いる習わしがある。
竹本たけもとtakemoto歌舞伎の舞台で演奏される義太夫節のこと。太夫の語りと太棹三味線が、人形浄瑠璃由来の演目の情景と心理を描き出す。
長唄ながうたnagauta江戸で歌舞伎とともに発達した三味線音楽。唄と細棹三味線を中心に、舞踊の伴奏から情景の描写まで歌舞伎の舞台を支える。
名題なだいnadai歌舞伎俳優の階級の一つで、幹部俳優の格。資格審査に合格し、昇進披露を経て名題となる。それ以外の俳優は名題下と呼ばれる。
番付・筋書ばんづけ・すじがきbanzuke / sujigaki芝居の演目・配役・あらすじなどを載せた冊子。江戸時代の番付に始まり、今日の劇場プログラム「筋書」へと受け継がれている。
一幕見席ひとまくみせき(まくみ)hitomakumi-seki / makumi歌舞伎座4階に設けられた、好きな一幕だけを選んで観られる席。手頃な料金で、歌舞伎を気軽に体験できる入口として親しまれる。
梨園りえんrien歌舞伎界を指す雅称。唐の玄宗皇帝が梨の園で音楽や演劇を自ら教えた故事に由来するとされ、江戸時代から用いられてきた。
06ROLES & FAMILY ARTS

役柄と家の芸

立役と敵役、名跡と襲名——市川家に代々受け継がれてきたものを知ることば。

お家芸おいえげいoiegeiその家が代々得意として受け継いできた芸。歌舞伎十八番を定めた市川宗家の荒事が代表格で、日常語「お家芸」の源にもなったとされる。
顔見世かおみせkaomise年に一度、新しい顔ぶれの一座を観客に披露する興行。江戸時代は十一月に行われ、劇場の最も重要な年中行事とされた。
敵役かたきやくkatakiyaku芝居の中で主人公に立ちはだかる悪人の役柄。国の転覆を謀る「公家悪」、写実的な「実悪」などの類型があり、善玉を大きく引き立てる。
隈取の色くまどりのいろkumadori no iro図解隈取は色が役柄を語る。紅は正義や勇気、藍は敵役や怨霊、茶は鬼や妖怪と、色を見れば人物の正体が分かる仕組みになっている。
傾城けいせいkeisei城を傾けるほどの美女の意から生まれた、最高位の遊女の呼び名。歌舞伎では『助六』の揚巻など、気品と誇りを備えた女方の大役として描かれる。
石橋物しゃっきょうものshakkyōmono能『石橋』に取材し、獅子の精が長い毛を振って勇壮に舞う舞踊作品の総称。『鏡獅子』『連獅子』などの大曲が連なる。
曽我物そがものsoga-mono父の敵を討った曽我兄弟の物語を題材とする作品群。江戸歌舞伎では毎年正月に曽我狂言を必ず上演する慣習があったとされる。
立役たちやくtachiyaku歌舞伎で男の役、またはそれを専門に演じる俳優のこと。女方と対をなし、狭義には敵役に対する善人の男役を指す。一座の中心を担う存在とされる。
初舞台はつぶたいhatsubutai芸名を名乗り、俳優として初めて正式に舞台を踏むこと。歌舞伎では幼少期に踏むことが多く、役者人生の出発点となる大切な節目である。
名跡みょうせきmyōseki代々受け継がれてきた由緒ある名前のこと。歌舞伎の名前は芸と歴史の器であり、襲名によって次の世代へと手渡されていく。
07THE ICHIKAWA HOUSE & THE THEATRE WORLD

市川家と興行のことば

三升の紋、團十郎茶、白猿の号——成田屋を深く知ることばと、櫓や桟敷など江戸の興行のことば。

市川宗家いちかわそうけIchikawa Sōke成田屋・市川團十郎家を指す呼称。初代が創始したとされる荒事、七代目が体系化した歌舞伎十八番、團十郎の名跡を受け継いできた本家を意味する。
江戸三座えどさんざEdo sanza江戸で興行を公認された中村座・市村座・森田座の三つの芝居小屋。明治に至るまで江戸歌舞伎の中心であり続けた。
楽屋がくやgakuya出演者が支度をし休息する舞台裏の部屋。雅楽の演奏の場に由来するとされ、江戸の芝居小屋では格による部屋割りがあった。
勘亭流かんていりゅうkanteiryū歌舞伎の看板や番付に用いられる、太く丸みのある芝居文字。客席が隙間なく埋まるよう願い、余白を残さず内へ入る筆法で書く。
座頭ざがしらzagashira一座の頂点に立つ俳優。人気だけでなく実力を兼ね備え、江戸時代には舞台のことに加え一座の運営にも大きな力を持ったとされる。
桟敷さじきsajiki客席の左右に一段高く設けられた特別席。古代の祭礼の見物台に由来するとされ、江戸の芝居小屋から今の歌舞伎座に受け継がれる。
千両役者せんりょうやくしゃsenryō yakusha一年の給金が千両に達するほどの人気と実力を備えた役者。二代目市川團十郎が最初の千両役者の一人とされる。
團十郎茶だんじゅうろうちゃdanjūrō-cha図解市川團十郎家ゆかりの柿色系の伝統色。五代目が『暫』で柿色の素襖をまとって流行したとされ、今も成田屋を象徴する色である。
白猿はくえんhakuen五代目團十郎の俳名に由来する号。名人にはなお及ばないという謙遜を込めたとされ、当代十三代目も「白猿」を名乗る。
幕間まくあいmakuai一幕が終わり次の幕が開くまでの休憩時間。読みは「まくあい」。食事や語らいも含めて芝居見物の楽しみの一部とされてきた。
三升みますmimasu図解市川團十郎家の定紋。大・中・小三つの升を入れ子に重ねた意匠で、初代が贈られた三つの升に由来するともされる縁起の紋。
やぐらyagura図解芝居小屋の正面上に組まれた構造物。幕府公認の劇場だけが掲げることを許され、興行権の象徴とされた。今も顔見世の吉例に残る。
08KABUKI IN EVERYDAY JAPANESE

日常に生きる歌舞伎ことば

奈落、黒幕、二枚目、こけら落とし——実は芝居から生まれて、いまも毎日使われていることば。

板につくいたにつくita ni tsuku役者が経験を積み、芸が舞台の床板にしっくり調和すること。転じて、職業や役割が身についてさまになる意味の日常語に。
大詰おおづめōzume芝居の最終幕のこと。江戸歌舞伎では時代物の最終幕を指したとされる。転じて、物事の最終局面を指す日常語になった。
黒幕くろまくkuromaku舞台で夜や闇を表し、場面転換にも使う黒い幕。転じて、表に出ずに陰で指図する人物を指す日常語になったとされる。
こけら落としこけらおとしkokera-otoshi新築・改築した劇場で初めて行う興行。工事の最後に屋根などの木くず「杮」を払い落としたことに由来するとされる。
差金さしがねsashigane作り物の蝶や小鳥を操る黒塗りの細い竿。人形浄瑠璃では人形の腕を動かす棒を指し、陰で人を操る意味の日常語に転じた。
三枚目さんまいめsanmaime図解芝居小屋の看板の三枚目に道化役の名を掲げたことに由来するとされる言葉。転じて、こっけいな役回りの人を指す。
修羅場しゅらばshuraba激しい戦いが演じられる場面。阿修羅と帝釈天が闘う場を指す仏教語に由来し、浄瑠璃や講談で戦いの場面を指す言葉となった。
捨て台詞すてぜりふsutezerifu台本になく、役者がその場で即興的に言う短い台詞。転じて、去り際に言い放つ負け惜しみの言葉を指す日常語となった。
奈落ならくnaraku図解舞台や花道の床下に広がる空間。地獄を意味する仏教語に由来するとされ、日常語「奈落の底」もここから生まれた。
二枚目にまいめnimaime図解芝居小屋の看板の二枚目に色男役の名を掲げたことに由来するとされる言葉。転じて、美男子を指す日常語となった。
花形はながたhanagata華やかな芸風で人気のある役者を指す言葉。「実方」と対の「花方」に由来するとされ、各界の人気者を指す日常語に広がった。
檜舞台ひのきぶたいhinoki-butai檜の板で床を張った格式の高い舞台。江戸時代は限られた芝居だけに許されたとされ、転じて晴れの場所を指す日常語になった。
幕切れまくぎれmakugire一幕が終わって幕が閉まること、またその場面。転じて、物事の結末や終わり方を指す日常語として使われる。
幕の内まくのうちmakunouchi芝居の幕間に食べる弁当として考案されたことに由来するとされる言葉。白飯と彩り豊かなおかずを詰め合わせた弁当を指す。